遮光インキとは?迷光を断つしくみと光学濃度(OD)の基本
レンズのコバや鏡筒で起きる迷光と、遮光インキの役割を解説。光学濃度(OD)の読み方や、選ぶときに見る性能項目まで、出典つきでわかります。
聞き手:カメラのレンズには「遮光インキ」という黒い塗料が使われると聞きました。レンズって、光を通すためのものですよね。わざわざ光を遮る部材が必要なのは、どうしてなんでしょうか。
解説:光を通したいのは、レンズの中央の「像をつくる部分」だけだからです。レンズの側面や鏡筒(レンズを収める筒)の内側に当たった余計な光まで通してしまうと、画像にノイズとして写り込みます。遮光インキは、その余計な光を吸収して、像に混ざらないようにするための黒いインキです。
聞き手:余計な光、というのが少し漠然としています。具体的にはどんな光のことですか。
解説:光学の世界では「迷光」と呼びます。ここから、迷光がどこで生まれるか、遮光インキがどう働くか、そして製品を比べるときに何を見ればよいかを、順に見ていきます。まずは迷光の正体からです。
迷光とは何か
聞き手:迷光という言葉は、初めて聞きました。普通の光とは何が違うんですか。
解説:光の種類が違うわけではなく、「通るはずのない道を通った光」のことです。光学部品メーカーのエドモンド・オプティクスの技術資料によると、迷光とは、光学系の有効な開口部(光が通る想定の範囲)の外側にあるエネルギーが、光学部品や機械部品の縁で散乱したものを指します。本来は像に関わらないはずの光が、縁で跳ね返って別の方向へ進んでしまうわけです。
聞き手:縁というのは、レンズの端のことですか。
解説:レンズの端も含まれます。レンズは円盤状のガラスやプラスチックで、表と裏の面のほかに、周囲をぐるりと囲む側面があります。この側面を、光学の現場では「コバ」と呼びます。コバはレンズの加工で削り出したままだと、すりガラスのように粗く、光を通したり散らしたりしやすい面です。
聞き手:コバに光が当たると、何が起きるんでしょうか。
解説:米国特許(US8958155B2)には、そのしくみが書かれています。レンズの外側寄りに斜めから入った光が、レンズの内側の面で反射して、像とは無関係な光としてレンズの外へ出ていきます。この光がフレアやゴーストを起こし、画質を下げる原因になると説明されています。フレアは画面全体が白っぽくなる現象、ゴーストは光源とは別の位置に像が現れる現象です。くわしくはゴースト・フレアの正体|レンズ内反射の原因と抑える技術で解説しています。
聞き手:なるほど、レンズ面だけでなく、側面でも反射や散乱が起きるんですね。それを抑える方法が、黒く塗ることなんですか。
解説:そのとおりです。次の章で、塗る場所ごとに役割を見ていきます。
迷光のポイント
- 迷光は、本来は像に関わらない光が、部品の縁などで散乱・反射して進んだもの
- レンズのコバ(側面)や鏡筒の内側は、迷光の発生源になりやすい
- 迷光が像に混ざると、フレアやゴーストなど画質低下の原因になる
コバ塗りの役割

聞き手:レンズの側面を黒く塗ることを、「コバ塗り」と呼ぶんですか。
解説:はい、そう呼ばれることが多いです。英語では「エッジブラッケニング」と言います。エドモンド・オプティクスの資料では、システム内の迷光を減らすために広く使われている成功した方法のひとつが、光学部品の縁を黒くすることだとされています。黒い層が光を吸収するので、コバで光が跳ね返りにくくなります。
聞き手:黒く塗るだけで、本当に効果が出るものなんでしょうか。
解説:同じ資料に測定結果が載っています。反射の方向ごとの強さを測る試験(BRDF 試験)で、コバを黒くした場合は、迷光の低減が1桁分改善したというグラフが示されています。光学部品メーカーのアバンティエも、黒くすることで迷光の影響を減らし、内部反射を抑え、光学系のコントラストを高められると説明しています。
聞き手:1桁というと、かなり大きな差ですね。
解説:ただし、これは特定の試験条件での結果です。どんなレンズでも同じ改善幅になるとは限りません。コバ塗りは、迷光を抑える手段のひとつであり、反射防止コーティングや構造設計と組み合わせて使うものだと考えてください。
聞き手:先ほどの特許では、塗った場合はどう変わるのでしょうか。
解説:遮光膜を設けると、斜めに入った光による内面反射光の発生を減らせて、フレアやゴーストを防ぐ効果が得られる、と書かれています。つまり、コバに当たった光を「反射させずに、その場で吸収する」のが役割です。
黒ければ何でもよいわけではありません
黒く見える塗料でも、光の反射が強いものや、薄く塗ると光が透けてしまうものがあります。見た目の黒さと、光を遮る性能は別のものです。性能は、次の章で説明する光学濃度などの数値で確かめます。
聞き手:見た目の黒さだけでは判断できないんですね。では、遮光性能はどんな数字で表すんですか。
解説:光学濃度(OD)という指標を使います。次の章で詳しく見ましょう。
光学濃度(OD)の読み方

聞き手:光学濃度、ODとは何ですか。
解説:光をどれだけ通さないかを表す数値です。光学フィルターメーカーのセムロック(IDEX Health & Science)の資料では、透過率の常用対数(10を底とする対数)にマイナスをつけたものと定義されています。式で書くと OD = −log₁₀(T) です。T は透過率で、0 から 1 の間の値です。
聞き手:対数と言われると難しそうですが、感覚的にはどう捉えればいいですか。
解説:逆に書くと T = 10 の「−OD」乗になります。つまり、ODが1上がるごとに、通り抜ける光が10分の1になります。同じ資料でも、100万倍にもなる透過率の幅が、0 から 6 という小さな数字で簡単に表せるのが ODの便利なところだとされています。
| OD(Syron Optics の対応表より) | 透過率 | 通り抜ける光の割合 |
|---|---|---|
| 0 | 1 | 100% |
| 1 | 0.1 | 10% |
| 2 | 0.01 | 1% |
| 3 | 0.001 | 0.10% |
| 4 | 0.0001 | 0.01% |
聞き手:ODが4なら、0.01%しか通らないということですね。
解説:そうです。ODは1違うだけで、遮光性能が10倍違います。ODが2から4に上がると、通り抜ける光は1%から0.01%へと減ります。カメラのように明るい光源が写り込む用途では、わずかな透過光も迷光の元になるため、この差が効いてきます。
聞き手:表の数字は、どうやって測るんですか。
解説:光学濃度計という専用の装置で測ります。中国の特許(CN103443666B)には、日本の規格 JIS K 7651:1988 に基づいて光学濃度計で透過濃度を測り、測定値が4.0を超えたものを合格とした例が出ています。これは特定の特許の中の合否基準です。業界共通の基準ではない点には注意が必要です。
聞き手:特許ごとに基準が違うということは、カタログのODを見るときも条件を確認したほうがいいですね。
解説:はい。ODは、波長や膜の厚さによって変わります。次の章で、選ぶときに見るべき項目をまとめます。
選ぶときに見る性能項目
聞き手:遮光インキを選ぶとき、ODのほかに何を見ればよいでしょうか。
解説:先ほどの中国特許は、遮光材料としての性能を保つには、あらゆる角度の入射光に対する低光沢性と、遮光性の両方を満たす必要があると述べています。光が当たる角度が変わっても反射でぎらつかないことと、光を通さないことの両立が求められるわけです。
聞き手:光沢が低いというのは、反射が小さいという意味ですか。
解説:おおまかにはそうです。遮光インキは、光を通さないだけでなく、表面で光を跳ね返さないことも大切です。跳ね返った光は、結局別の迷光になってしまうからです。インキメーカーのアーティエンス(artience)は、反射率1%未満をうたう低反射の黒色インキを製品ラインアップに載せ、ゴーストやフレアをより精密に抑えられる用途を示しています。
聞き手:反射を抑えるのと、光を通さないのは、別々の性能なんですね。
解説:そうです。ここで、選ぶときの見どころを表にまとめます。
| 項目 | 何を確かめるか | 注意点 |
|---|---|---|
| 光学濃度(OD) | 目標とするODに届いているか | 測定した波長・膜厚の条件を確認する |
| 反射率・光沢 | 表面で光を跳ね返していないか | 入射角を変えても低く保てるか |
| 膜厚 | 薄い膜でも必要な遮光性が出るか | 薄い膜と遮光性能の両立が、製品ごとの特長になる |
| 波長範囲 | 可視光だけでなく近赤外まで遮るか | 用途のセンサーが見る波長に合わせる |
| 塗布性・量産適性 | ばらつきなく塗れるか | 工程の安定性に直結する |
聞き手:波長範囲というのは、どういうことですか。
解説:富士フイルムのイメージセンサー向け黒色材料のページには、高いODを持つ非カーボンタイプの材料が、可視光だけでなく近赤外の領域でも遮光が必要な用途に向く、と書かれています。同じページの透過率のグラフでは、膜厚1.3μmの材料は波長1200nm以上で透過率が徐々に上がり、1800nmで約10%になる一方、膜厚3.5μmの材料は波長が長くなっても透過率が1%未満にとどまる、と説明されています。同じ系統の材料でも、膜の厚さによって、長い波長での遮光性能が変わるということです。
聞き手:可視光で十分遮れていても、赤外では漏れる場合があるんですね。
解説:はい。ただし、これは富士フイルムの特定の製品の例です。ほかの材料にそのまま当てはまるわけではありません。逆に、アーティエンスのように、可視光は遮り、近赤外は通す赤外透過タイプの黒色インキもあります。赤外線カメラやセンサーで、必要な波長だけを通したい場合に使われます。用途しだいで、遮るべき波長が違うのです。
聞き手:薄い膜で性能が出るかどうかも、重要そうです。
解説:アーティエンスは、薄い膜で高い遮光性能を出す黒色インキを用意しており、プリズムレンズ内部の反射や迷光を抑える用途を挙げています。膜厚は、遮光性能と並んで確認したい数値です。
塗り方と量産
聞き手:コバ塗りは、実際にはどうやって塗るんですか。
解説:アバンティエの解説によると、大きく分けて刷毛(はけ)で塗る方法と、スプレーで吹き付ける方法があります。刷毛塗りは手軽で融通がきき、試作や少量生産に向いています。一方で手作業のため時間がかかり、厚みがばらつきやすいので、高精度が必要な場合や大量の処理には向かないとされています。
聞き手:スプレーのほうは、量産向きなんですか。
解説:スプレーは、塗らない部分をマスキングテープで保護したうえで吹き付けます。塗りむらが少なく、数が増えても対応しやすいのが利点です。反面、マスキングを精密に行う必要があり、乾燥や硬化に時間がかかると工程が長くなります。
手順
- 塗らない面(レンズの有効面)を保護する
- 刷毛やスプレーで、コバにインキを塗る
- 乾燥・硬化させて、塗膜を安定させる
- 膜の厚さ、外観、遮光性能を確認する
聞き手:塗ったあと、乾かして終わりですか。
解説:硬化が十分でないと、塗膜が傷みやすくなります。アバンティエは、しっかり硬化させることで、インキ層の耐久性と耐摩耗性が確保されると述べています。また、宇宙用や防衛用の光学機器では、塗膜が熱や湿気に耐えることが重要だとされています。使われる環境によっては、耐熱性や耐湿性も確認項目になります。
聞き手:塗り方によって品質が変わるなら、インキそのものの塗りやすさも大切になりそうです。
解説:そのとおりです。インキの性能は、狙った厚さで安定して塗れて初めて発揮されます。ODの数値が高くても、塗るたびに厚みがばらつけば、製品ごとに遮光性能もばらついてしまいます。カタログのODと、量産での塗布の安定性は、セットで確認したい項目です。
まとめ
聞き手:ここまでの話を、一度振り返ってもらえますか。
解説:迷光は、レンズのコバや鏡筒の縁などで光が散乱・反射して、像に混ざってしまう余計な光です。遮光インキは、そこに黒い層をつくって光を吸収し、フレアやゴーストの原因を減らします。選ぶときは、ODだけでなく、反射率、膜厚、遮る波長の範囲、塗布の安定性まで見る必要があります。
聞き手:数字は、条件とセットで見ることが大切なんですね。
解説:はい。ODは波長と膜厚で変わりますし、特許や各社の例は、その条件の中での結果です。NW(Corporation NW)では、遮光インキ HD6 を取り扱っており、遮光性能 OD4 以上と、安定した塗布性・量産適性を特長としています。光学部材の取り扱いについては、製品・サービスのページをご覧ください。
よくある質問
遮光インキとは何ですか。
レンズのコバ(側面)や鏡筒の内側などに塗って、余計な光を吸収する黒いインキです。迷光を抑え、フレアやゴーストなど画質低下の原因を減らす目的で使われます。
コバ塗りの効果はどれくらいですか。
エドモンド・オプティクスの技術資料では、反射の方向ごとの強さを測る試験で、コバを黒くすると迷光の低減が1桁分改善したというグラフが示されています。ただし特定の試験条件での結果で、どのレンズでも同じになるとは限りません。
光学濃度(OD)とは何ですか。
光をどれだけ通さないかを表す数値で、透過率の常用対数にマイナスをつけたものです(OD = −log₁₀(T))。ODが1上がるごとに、通り抜ける光は10分の1になります。
遮光インキを選ぶときは何を見ればよいですか。
光学濃度のほか、反射率・光沢、膜厚、遮る波長の範囲、塗布の安定性を確認します。ODは波長や膜厚の条件で変わるため、測定条件も合わせて確認することが大切です。
出典・参考資料
この記事は Corporation NW 編集部が、公開されている資料をもとに AI を使って作成し、出典を確認したうえで掲載しています。対話の登場人物は、説明のための設定です。
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